2024年 R6
●鷹2月号より
柚子風呂の気楽極楽明日あり
みてくれの悪しき柚子とて湯に香る
柚子十個つきぬ日月われにあり
石割れば石の音してしぐれけり
●鷹1月号より
群衆の街見下ろして鳥渡る
二千年ロバの曳く荷や星月夜
たかが血とされど流血紫苑咲く
2023年 R5
●鷹12月号より
聴診器汗ばむ胸に当てるなり
徒党組み押寄せ来る放屁虫
月明の森白雲の陰に入る
●鷹11月号より
ヒロシマに集まる異人原爆忌
炎帝に剝がれし顔を向けにけり
白鷺の一羽と見ればまた一羽
●鷹10月号より
蓮咲いて文殊菩薩に剣かな
変幻の光閉ぢ込め蓮の露
刺身蒟蒻禅問答はほどほどに
●鷹9月号より
山々にいま乙女らに合歓咲けり
たましひとかばねをさらす炎天下
水に浮く蛇さらさらと流れけり
●鷹8月号より
あめんぼと雨の日曜ねまるなり
十字切る祈り短し棕櫚の花
連添うて歩く二人や夏の月
●鷹7月号より
春の夜本の腰巻外したる
もすそゆれ乙女らゆきぬ花ふぶき
白牡丹オンコロコロと唱へけり
●鷹6月号より
ZEISSのルーペ畳めり蓮華草
金継の赤き茶碗や春疾風
男神の白き裸身や桃の花
●鷹5月号より
火のにほひ放ちし雉子撃たれけり
雪原の馬一筆に描きけり
●鷹4月号より
蕉翁の枯野継ぐものたれかある
あんぱんの一つ減りたる歳の春
フレスコの淡き緑や春着の子
●鷹3月号より
伴ひとり下弦となれる冬の月
メキシコ産冬至南瓜に刃を入るる
●鷹2月号より
ダ・ヴィンチの贋作なれど冬暖
桜炭まっかに蟹を焼きにけり
●鷹1月号より
カルストの朝霧速く流れけり
このたびは一事が大事栗の飯
2022年 R4
●鷹12月号より
天高し鞍の腹帯絞めにけり
縄文も弥生も遥か木の実落つ
●鷹11月号より
その朝の路面電車と蟬の声
秋の夜の充電せがむ電子音
●鷹10月号より
浜万年青風雨に耐へし朝かな
陰陽の形代川を流れけり
昼寝より醒めし頭上の百日紅
●鷹9月号より
明易や戦なき世の膝小僧
首かしげ恐れを知らぬ雀の子
蟻の列藝術大学門前に
梅雨明や髪刈る音の潔し
●鷹8月号より
為すべきと決めし約束藤の花
くらべうま落馬の騎手を振向ず
●鷹7月号より
朴下忌と呼ぶべき月の皓々と
万愚節また幾人の死を数ふ
ふらここを漕げよ乙女ら涙して
爆弾のごとき長靴蝌蚪の国
●鷹6月号より
明け方とおぼつかなくも春の夢
飢知らぬ我らゆるせよ木瓜の花
●鷹5月号より
立春の蒼きシリウス言問へり
夕東風や病平癒の飾絵馬
無援なる国戦へり春の鹿
すべもなく凝れる手より椿落つ
●鷹4月号より
一月の漁港を守る鳶かな
梟のタイムトンネル潜りけり
●鷹3月号より
気がつけば冬月すでに天にあり
こがらしの身にくれなゐの袖通す
●鷹2月号より
わが行けば歩く速さの綿虫ぞ
舟の波紅葉の影をゆらしけり
探査機の電波とどけり七五三
●鷹1月号より
秋風や名鹿(なしし)の海の砂の粒
先代は居らねど秋のジャズ喫茶店
2021年 R3
●鷹12月号より
秋つばめ落日の雲乱れけり
足摺の断崖よりの秋の風
虫哭けりあまたの種族保ちつつ
●鷹11月号より
落蟬の指の中にてふるへけり
蹄鉄の泥をぬぐひて馬冷す
●鷹10月号より
鳳凰の翼広げし夕焼雲
正直に生き金亀子天道虫
●鷹9月号より
亀の首のばしのばしぬ沖縄忌
夏帽子医者も注射もいらぬなり
●鷹8月号より
一心にみがく鏨や若楓
金槌と鏨磨きて夏来る
十薬のかかげし蕊も濡れにけり
●鷹7月号より
揚雲雀無限地獄を知らぬなり
青鷺の翼傾け降り立ちぬ
生首の重さ甘藍下げたるは
●鷹6月号より
五百年咲きたる桜ただ咲けり
花あれば花の下にて飯を食ふ
谷底に青き川あり花の雲
●鷹5月号より
我が声にわれの驚く雉子かな
きさらぎの氷柱男の子らなぎ倒す
はくれんの雨待つ蕾ふくらみぬ
●鷹4月号より
橘の家紋正しき年明くる
初夢の無残の翼広げけり
三日はや膝から付箋こぼれ落つ
●鷹3月号より
枯山の鳥と思へばまた一羽
ゲルニカと赤いコートの女かな
●鷹2月号より
唇に赤き血のいろ紫苑咲く
問答に負けたり美男葛の実
冬晴や墨たつぷりと浸すなり
大根や師系傍系栄あれ
●鷹1月号より
色鳥来吾にさびしき尾骶骨
伊邪那岐のめぐる黄泉路や穴惑
百舌鳥の声大風呂敷を広げけり
2020年 R2
●鷹12月号より
苦瓜の赤く裂けたる匂ひかな
源平のいくさぞ祖谷の霧襖
●鷹11月号より
八月の腹の贅肉如何とも
頭から神馬洗へばいななけり
白露の天上世界歪みたる
●鷹10月号より
芋虫の時間と我に言ひきかす
パソコンの消えさう北へ雷走る
●鷹9月号より
濡れをるは毛氈苔の捕虫葉
蟇不動の位置を捨てにけり
●鷹8月号より
芍薬やわれに五月の誕生日
豆飯の夕餉の香り遠くより
廃鉱となりし山々ほととぎす
大紫法衣にとまることなかれ
●鷹7月号より
朧なるこの世へだてしマスクかな
花に雪アルデバランの哀しき眼
●鷹6月号より
戦乱は街のみならず雲雀鳴く
引鴨の私信のごとく旅立てり
春の鹿守るべきもの己のみ
●鷹5月号より
錠剤に小さき文字あり實朝忌
船漕ぐや桃の香りの華胥の国
●鷹4月号より
元旦や帆柱もなき戦船
騎馬初一打の鞭に疾駆せり
椿落つ一睡に夢見たるらし
雪片を睫毛に受けし一夜かな
天界の星に夜明けの鴨の声
●鷹3月号より
護国寺の禅師一喝干大根
寒晴や棺の顔に触れしのみ
●鷹2月号より
雨降らす女ありけり冬紅葉
雲に鳥翁の杖のたふれけり
●鷹1月号より
虫を喰ふ狢藻の花可憐なり
みぢんこと吾のひと世や秋の天
Memo
鷹俳句会の俳句雑誌 『鷹』 は、
2005年 鷹5・6月合併号以後、小川軽舟 選
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