1988.07

乱は藍青

轍 郁摩

恋ひ恋ひて我に賜る恩寵の太刀の刃こぼれ凄まじきかな

水欲りて濁流まねく夢違い駿馬の産を問ひただしをり

罪と罰やさしくむごく若武者の鎧ほどきて肩ぬぎの肌

言の葉はやさしかれども花石榴忘れむとぞ忘れむとぞ謀りぬ

まくなぎに有りと思へる重力の万象の誤差祈りてやまず

音みなのやむときわれの息聴けり残酷に滅ぼしたき世界

消息のとぎれとぎれを嘉しをり菖蒲(あやめ)の藍の濃きひとところ

風さやぐ天の河原に漁(さなど)りし歌姫うたを忘れたまへり

煉獄の風ぞ恋ほしき炎熱の寝汗に冷ゆる後朝(きぬぎぬ)ならむ

「太刀恋ふは古き漢(をとこ)よ」汚さざる手もて滅ぼす惑星ゲーム

天蓋のふた落ちゆける暗黒を二藍(ふたあゐ)の瞳(め)の神の子見きと

詠はざれば歌は死の翳やすらけく蘇鉄葉強(こは)き男の館

乱は藍青、恋は紺青 凛凛といのち散らせし昔思ほゆ

ふしだらに生きしものみな美しきシャワー壊るる水無月の乱

変身を願ふ汝(な)の髪いくたび切らん泰山木は死を見下ろせり

蛍たつ闇の草葉を濡らしつつ別るる恋の肉冷めやらず

転生の夢も見ざりき麻須羅夫の肋骨(あばら)の数の足らざりけるや

よこしまに枇杷すする音雫してガリレイが視し公転周期

神の名を三度唱へし不覚なり抱擁の腕無毒と化せり

いにしへを明日につながむ今日ならね花鳥星辰暮れむとすらん

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● インターネット短歌抄「乱は藍青」  (PDF:9k)


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