轍 郁摩 |
類焼も知らざる父の牡丹園いくたび愛を誓ひし喉咽(のみど) 六腑より病みたる王の眼差しの青き焔に若菜ぞ萌ゆる われもまた呪はるるため生きむとす兄者の剣の鞘失ひし うつくしく生(あ)れたる罪ぞふかかりし巨鯨沈める海の紺青 零落の妻唆す男ゐてレンズ磨きの職失へり 額の傷隠しとほせる語部(かたりべ)の虚言に濡るる赤き帆柱 例外のひとりのわれをおもふとき赤き椿の落つる哀しみ 三度四度歌絶つごとく首をはね頚骨硬きゆふまぐれなり 受胎せむ否とイエスのあはひにて色さめゆける寒の満月 欠落の理論武装をこととして『やさしき統計学』読み了る |