1989.02

やさしき統計学

轍 郁摩

類焼も知らざる父の牡丹園いくたび愛を誓ひし喉咽(のみど)

六腑より病みたる王の眼差しの青き焔に若菜ぞ萌ゆる

われもまた呪はるるため生きむとす兄者の剣の鞘失ひし

うつくしく生(あ)れたる罪ぞふかかりし巨鯨沈める海の紺青

零落の妻唆す男ゐてレンズ磨きの職失へり

額の傷隠しとほせる語部(かたりべ)の虚言に濡るる赤き帆柱

例外のひとりのわれをおもふとき赤き椿の落つる哀しみ

三度四度歌絶つごとく首をはね頚骨硬きゆふまぐれなり

受胎せむ否とイエスのあはひにて色さめゆける寒の満月

欠落の理論武装をこととして『やさしき統計学』読み了る


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Ikuma Wadachi