1989.12

われなるや

轍 郁摩

麗しき比例のさまの下剋上十六進に指足らざるを

眼下なる青き地球に雲の渦乱世恋ひしき馬よりもなほ

ぬるま湯の無風の海に水母浮きジャーナリストの死のごとくあり

黒潮に突き出す岬恋ふるとは空海伝に星呑みしとぞ

潮かぶるカメラ幾台長身の髪かきあげて波迎撃す

サングラスとれば幼き瞳もありぬ群狼にほど遠き黒革

薄明に色ある影を見てしより真黒き影を罪とぞおもふ

「われなるや」去年の野分に風まさり庭の紫苑をかき乱すかな

忘れずよ悪しき迷ひの花鬱金石見の浜に波打ち返す

青々と目にしむ木賊愛恋のクラリネットの簧(リード)研かん

脳細胞破壊ウイルス逆探知 奥歯の穴にしみ入る清水

暗黒の天に咲きをる百合あらば馬頭星雲くれなゐ発す

染め抜きの幟汚れて戦果つ肥満の鳩の飛び立ちかねつ

百年の祭り過ぎつつ自由なる土佐の赤き血人恋ふなかれ

北天の座標の狂ひいやまさり百億年後に歌はほろびよ


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Ikuma Wadachi