轍 郁摩 |
おごそかに五感の扉開くとき歌は心に死を告げざらむ 宇と宙の虚しからざる揺籃に幾度たましひ遊ばせたるや 極小と極大の差のたわいなさ宇宙柵ここより崩る 剥奪の名残りの力あるべかり陽光に入り鷲見失ふ 天河暴発の危機せまりつつも相貌の肉弛める悲哀 沈丁花の香は庭々を満たしをり世は事もなく破滅へ向かふ 一国にはてあることの哀しけれエピゴーネンの屍越えよと 春の夜の雨聴くわれの心底に焔の剣の旋転(まは)る音せり 惜しむべし無傷の五体繋がりて刃の味を知らざる不惑 優しさを求むをみなよ征野なきいくさに漢まなこ老いたり 枯れがれの声に年寄るここちして無血革命さびしからずや 額(ぬか)の痣あざやかなるを夜毎見むツンドラの地の春はつかのま 悪夢にて呼ばれし名前わが名にあらず旧約伝に『蜻蛉(アキツ)』ゐたるや 視野検査とてふと詩歌暗黒の瓦礫を見たり 白点動く 死を唄ふ歌を最期の政治犯 冬オリオンは傾ぶきたるぞ |