轍 郁摩 |
明日なきを肝に銘じて狂ひたる電脳都市のクラキアケボノ 春のゆき 罪を罪とぞ認めざる祖国をもてる羚羊あはれ 数学の数に頼らぬ直感のニホンの初めカオスと呼べり 漆黒の孤独を植ゑしヴェランダに水やりわすれ藍にほひたつ ベランダの土乾ききり吾妹子の蒔し鬼灯いな鳳仙花 花の夜のをのこに児あり悔恨の錆太刀ぬらす今宵新月 死なむとぞいくさなきとき戦恋ふ心の飢ゑは刃のごとし 紺青の衣まとへば凛々しきを枕並べて討ち死にもよし 逢はずとも逢ひたるひとのありぬれば一世のいのち歌おくりあふ ことごとく「何故?」と問ひたる計算機データの意味を取り出しかねつ 世も末の花の乱れに酒を注ぎゆき過ぎつつも後世恐るる 鯨鯢の魚篇なる分類と銛打つことをやめし男等 転生は願はざれども相対のいのち掛けあふ乱世恋ひしき 在らぬ世の大教室の椅子堅し白きチョークが宇宙を説けり 笑ひあふ辞世ひとつの欲しけれど夢の続きは夢にて候 |