轍 郁摩 |
ひとこそは永遠のなげきよ虎の尾の微風にゆるるあさきむらさき 錫融けて銅のはだへを流れ落ち過不足多き一世を生きむ 性も死もひとたび忘れゐたまへば夜毎にそだつ赤き隕石 美しき記憶少なく息せしを海底地図の干上がる大地 憎悪すべきことのみ多き浮世なれ陸(くが)より宙に魚族の進化 ある時の過去持つ吾れの眼前に魚族のえらは開かれゐたり 魂の傷付いてゐし午後なれど笑顔のヴィデオ撮られて老いつ 重力のきしみにたへる性愛は五千年後の釦のごとし 花と死と生き急ぎたるもののふの鎧は知らず楯なほ知らず 焚溺の死がわかつまで夫婦とて神母木(いげのき)坂に積もる薄雪 |